Days06
Last Christmas〜翔先輩の秘密


私立森澤学園高校(男子校)は毎年クリスマスイブに駅前商店街と駅の向こうにある誠心(せいしん)女学院と共催で"クリスマスフェスティバル"を開催している。
メインはそれぞれの演劇部と合唱部の合同舞台発表と各クラスの模擬店で、売上のすべては福祉団体に寄付される。

「な、頼むって!!」
12月初めの森澤学園付属皐月寮205号室。
生徒会長で寮生でもある2年の宇佐見翔(うさみかける)は寮長の中島南と副寮長の下川青にぺこぺこ頭を下げていた。
「却下。」
「そんな、青〜!!」
きっぱりと答える青に翔は情けない声を出した。
「第一、今さら"寮の方でなにかやれ"って言われてもなぁ...」
401号室の住人である翔がふたりの部屋を訪れたのはクリスマスフェスティバル、通称"クリフェス"の協力要請であった。
しかし、2学期の初めからクラスやクラブで準備を始めてもぎりぎり、という状態なので、この時期の翔の申し出にはだいぶ無理があった。
「な、頼む!! 同じ釜の飯を食ってる仲じゃないか!!」
「うるさい!! 途中入寮のおまえがえらそうに言うな!!」
普通、寮生は入学時から3年間、寮で生活するのだが、翔の場合は父親の海外転勤のため2年生になってから寮に入ったのだ。
1年の時に先輩たちに下僕(!!)のごとく奉仕させられていた南たち2年生は、最初から後輩のいる状態であった翔を「ずるい!!」と思っているのだった。
「大体、翔のせいで今年の1年、確実にひとりは寮に入りそこなったんだからな!!」
「って今さらそんなこと言うか!?」
南と翔が"本来のテーマ"からあきらかにかけ離れた言い争いをしているのを青はあきれた顔でながめていた。
と、そこへ、青の携帯が着信を知らせた。
「もしもし...ん、今こっち来てる...代わろうか?」
青は電話の相手と二言三言交わすと携帯を翔に突き出した。
「翔、川原から。」
森澤学園生徒会副会長の名前に翔は"げっ!!"という顔になったが、青から携帯を受け取り話し始めた。
ちょうどその時、205号室のドアがノックされ、青が返事をすると、隣の部屋の1年生・中島砂原が顔を出した。
「あ、やっぱりここにいた。」
「なんだ、翔に用か、サハラ?」
「ん。僕じゃなくて圭がね。」
サハラにつづいて205号室に入ってきた藤原圭は携帯を手にぎゅっと握りしめていた。
「その携帯、翔の?」
「はい。」
「なるほど。なんで川原が青にかけてきたかわかったよ。」
南がため息をついていると、翔は話が終わったようで青に携帯を返していた。
「先輩、携帯電話、ちゃんと持って行って下さい。」
そう言って翔の携帯を差し出す圭の口調も表情も一見いつもと変わらぬ落ち着いた様子であったが、かれこれ半年以上同じ部屋で生活した翔は圭の"怒りのオーラ"をしっかりとキャッチしていた。
401号室に放置されていた翔の携帯からはひっきりなしに着メロが流れていて(実は翔もそれがわかっていて置いていったのだが)、圭がそのうるささに頭を抱えていたところにちょうどサハラが現れ、ふたりで"翔探しの旅"(!?)に出た、という訳だったのだ。
「あぁ、悪かったな。サンキュ。」
ごまかすように笑いながら携帯を受け取った翔は着信履歴やメールのチェックを始めた。
「そんなに仕事山盛りなんだから無理に増やすことないんじゃないか?」
南のその言葉に、携帯の表示に一喜一憂していた翔は"きっ"と顔を上げた。
「何だと!? 寮が参加してくれれば売上がどれだけアップすることか!?」
実際、寮生には南や青のほかにも地方から引き抜かれてきた各部の"スター"が多いのだった。
「いいじゃん、別にチャリティなんだからさぁ。うちと誠女のどっちが売上多くても。」
「まぁ、翔の場合はいろんな意味で"リベンジ"したいんだろうけどな。」
「...!!」
青の言葉に翔の顔色が変わった、と一年生たちが思ったその時、翔の携帯から"Last Christmas"の曲が流れ出した。
「もしもし!!...あ?ちょっと待て!! その資料、部屋にあるから!!」
そう叫びながら205号室を出て行く翔に南はひらひらと手を振った。
「がんばれよ〜、"うさぎかける"。」
「"うさみ"だ!!」
翔は南のボケにしっかりツッコむと、皐月寮2階の廊下を駆け出して行った。

「...今の翔先輩?」
サハラの同室の1年生・上村大和がびっくりした顔で205号室に入ってきた。
「どうもサハラの声がすると思ったら...どうして圭に数学ききに行ったはずのおまえが圭とここにいるんだよ?」
「ま、いろいろあって...」
苦笑いしながら答えるサハラの隣で圭もこっくりとうなづいた。
「ところで...」
サハラは青に顔を向けるとにっこり笑った。
「青先輩、翔先輩の"リベンジ"ってなあに?」
その言葉に青はいたずらっぽく笑い、南は苦笑いした。
「...どうしておまえはなんでも首つっこみたがるんだ?」
「まぁいいじゃないか、南。どうせ2、3年生は知ってることなんだし。」
青の言葉にサハラはうれしそうに手をたたいた。
大和はひとり"訳がわからない"という顔で首を傾げていた。

「あのな、駅前広場にでっかいもみの木があるだろ?」
森澤学園と誠心女学院の間にあるN駅。
その東口(森澤学園側)にある大きなもみの木は12月になるときれいに飾られてクリスマスツリーに変身する。
「実は、クリスマスイブにあのもみの木の前で告白するとかならずうまくいく、っていうジンクスがあるんだ。」
南の言葉に1年生たちはびっくりした顔になった。
「え〜そんなのあったんだぁ!! 大和、知ってた?」
「いや、おれも知らなかった...」
首を振りながらそう答える大和の隣で圭も黙ったまま首を振った。
「で、去年のクリスマスイブに翔がツリーの前で告白した、と。」
にっこりと青がそう言うとサハラは狂喜乱舞。
「え〜すごい!!すごい!! 相手はだれ!?」
「去年の誠女の生徒会長。」
「まったく命知らずだよなぁ。"誠女の生徒会長"っていったら代々"才色兼備"でうちの男連中のあこがれの的だっていうのに。」
「まぁ、元々、幼なじみだったんだし。」
1年生三人は黙って先輩たちのやりとりにじっと耳を傾けていた。
「それで、翔はなんと!!その生徒会長からOKをもらって、次の日駅前で待ち合わせをしていたんだが...」
「"が"?」
意味ありげに言葉を切った南にサハラは"待ちきれない!!"という様子で口を開いた。
「"彼女"は現れず、代わりに来た"彼女の妹"が『姉は来れない』とだけ。」
「え!?なんで!?」
「後から聞いた話だと、"彼女"は元々好きな人がいて、クリスマスにその人から告白されてそっちとつきあうことになったんだと。」
その言葉にサハラは大きくため息をついた。
「翔先輩かわいそ〜!!」
「あの...」
今にも泣き出しそうな(!!)サハラの横でいままで黙っていた圭がおずおずと手を挙げた。
「なんだ、圭?」
青はにこっと笑いながら圭に顔を向けた。
「...それが翔先輩のリベンジとどうつながるんですか?」

「Days」のクリスマススペシャル(!?)バージョンを4回(中途半端!!)に分けてお送りします♪
初登場のくせに(!!)スペシャルの主役を飾る"翔くん"気に入っていただけるとうれしいです(^^)
タイトルはWhamのクリスマスソングから♪この曲のサビの部分からこのお話ができました(^^)
それではつづきをお楽しみに(^^♪
[綾部海 2004.12.18]

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