※このお話は「A Kind of Masic」を読んでからお読み下さいm(_ _)m

036.きょうだい
小さな頃から
前編



とある秋の土曜日。
前田雪野、宮島要、宮島天の3人はM市郊外のとある道をてくてくと歩いていた。
「映画館まだかよ!? もう疲れた!!」
「ってまだ15分しか歩いてないじゃん。」
「...すみませんねぇ、車じゃなくて...」
ブツブツ文句を言う天とそれにツッコミを入れていた要は雪野の言葉にぴたっと口を閉じた。

某ファンタジー映画を初日に観に行こうと言い出したのは久志だった。
しかし、当の本人は仕事が予定通りに進まず...雪野が家を出る時も担当編集者とふたりで"仕事部屋"に籠もっていた。
まぁ、その分"軍資金"をたっぷりもらったから雪野としてはどっちでもよかったのだが...。

D駅から歩いて約20分。
3人は映画館にボーリング場にゲームセンターとさまざま娯楽施設のあるアミューズメントビルの入口に到着した。
そして、雪野が入口近くの券売機に向かおうとすると...。
「最初はグー!! じゃんけんぽん!!」
要と天の掛け声に雪野は条件反射でパーを出した。そして、要と天はグー。
「負けた〜!!」
こぶしを握り締めたまま天はくやしそうに叫んだ。
「それじゃあ、おれは入場券買ってくるから、天は飲み物ね。」
要はにっこりと少し離れたところにある自動販売機を指差した。
「え、じゃあ、わたしは...?」
「雪野ちゃんは勝ったからお仕事なし。で、はぐれるかもしれないからここで待っててね。」
さらににっこり笑う要の袖を天がくいくいと引っぱった。
「要、オレ、金持ってない。」
「仕方がないなぁ...じゃあ、これ。おれ、ウーロン茶ね。」
要が千円札を渡すと天はダッシュで自販機に向かった。
「あ、じゃあ、これ...」
雪野は券売機に向かおうとする要にあわてて久志から預かった五千円札を手渡した。
「ありがとう。じゃあ、ちょっと待っててね。」
要はそう言うと長い列ができている券売機へ向かった。
ひとり残された雪野は後ろの壁に軽く寄りかかった。
そして、目の前を通り過ぎていくたくさんの人たちをぼーっとながめていた。

そんな3人を離れたところから見ている人物がいた。
雪野がひとりになると"彼"はゆっくりとそちらへ歩き出し、雪野のすぐ横で立ち止まった。
ふと人の気配を感じた雪野はなにげなくそちらに目をやると、びっくりした顔になった。
「しーちゃん...」
つぶやくようにそう言った後ほっとした表情になった雪野に少年はにっこりと笑った。
「偶然だね、雪野。」
「...あ、ごめん!! また"しーちゃん"って言っちゃった!!」
「いいよ、雪野なら。」
あわてた表情の雪野に静(しずか)はくすっと笑った。
その名前に加えて母親似の女顔である"彼"は幼い頃からよく女の子に間違えられていた。
本人がそのことをとても嫌がっているのを感じた周りの人々はいつしか彼のことを"セイ"と呼ぶようになっていたのだった。(顔は変えようがないので)
しかし、幼なじみの雪野は小さい頃からのクセが抜けずついつい"しーちゃん"と呼んでしまうのであった。
「隣、いい?」
「あ、うん。」
静は雪野の横に並び同じように壁に寄りかかると顔だけ雪野の方に向けた。
そして、不自然な沈黙が流れた。
雪野は顔を前に向けたままだったが、静が自分のことを見ているのがわかって落ち着かない気分だった。
「あ、あの、しーちゃん、誰かと来たの?」
"このムードをなんとかしなければ!!"と思った雪野はなんとか口を開いた。
「ああ...」
そして、静が答えようとしたその時。
「こいつに何の用だよ?」
ウーロン茶のペットボトル1本だけを手にした天がふたりの間に割って入った。
てっきり雪野がナンパされていると思った天は厳しい顔をしていたが...
「げ!! 古屋!!」
静の顔を見ると一気にいやそうな表情になった。
「奇遇だねぇ、宮島"タカシ"くん。」
静はわざと"タカシ"のところを強調して言うとにっこりと笑った。
「な、なんでおまえがここにいるんだよ!?」
天は突然現れた自分のクラスの委員長にあせりまくっていた。
「それはこっちのセリフだよ。ここは"西中学区"なんだから西中出身の僕がいても全然おかしくないんだから。」
「うっ...」
そんな会話を交わすふたりを雪野は横で困った顔をしながら見ていた。
「お待たせ...って、あれ? 古屋?」
「やぁ、要。」
券売機から戻ってきた要はやはり静を見て驚いた顔になった。
そして、要は雪野に視線を移した。
「やっぱり知り合いだったんだ。」
「え?」
要の言葉に雪野は首を傾げた。
「いや、同じ中学出身なのに委員会で会ってもあいさつもしないからなんか変だなぁ、って思ってたんだけど...」
「そ、それは...」
雪野がどう答えようか迷っていると...
「セイ!! なんでさっきと違うところにいるんだよ!!」
突然現れた少年が静のところに一目散に駆け寄ってきた。
「勝(まさる)!?」
「まーちゃん!?」
「"まーちゃん"って...あ!! 雪野!?」
やはりふたりの幼なじみである勝の登場に静と雪野は驚いた声をあげた。
そして、雪野の顔を見た勝も同じであった。
「あれ、寺西?」
勝の顔を見て要も驚いた顔をしていた。
「あ〜!! 宮島要!! おまえ〜!!!」
そう言うと勝はいきなり要につかみかかった。
「なんで高校で陸上部に入らなかったんだよ!? 勝ち逃げしやがって〜!!」
「そんなこと言われても...」
せまってくる(!?)勝に要はこまった顔になった。
「あ。」
雪野は勝の言葉から要が中学時代、陸上をやっていたという話を思い出した。
(ちなみに、勝は南高陸上部所属。)
「知り合いだったんだ。」
「うん、大会でよく顔合わせてたから。」
要はなんとか顔だけ雪野の方を向いた。
「でも、この3人がつながってるとは知らなかったなぁ。」
「...」
要の言葉に雪野はうっとなった。
「おい、てめえ!! 人にぶつかっといてなんだよその態度!!」
静の向かいに立っていたため勝に突き飛ばされた天は勝の服をぎゅっと引っぱった。
「なんだおまえ!?」
勝は要から離れると、今度は天につかみかかった。
「おまえこそなんだよ!?」
「なんだと〜!!」
ぎゃーぎゃーと言い争うふたりを残りの3人は困った顔で見つめていた。
「まぁ、勝、もうやめておきなよ。」
「天もいいかげんにしろ。」
静と要はなんとか勝と天を引き離した。雪野は要の隣で苦笑いしていた。
「あんたら、雪野のツレ?」
「あ、うん。」
要と天をじろじろと見ていた勝は要の返事を聞くと、雪野に顔を向けた。

「雪野、おまえ、セイのこと振ったくせに、なんでこんなヤツらといっしょにいるんだよ!?」

勝の言葉に雪野と天はかたまり、要は驚いた顔になり、静は「あ〜あ...」という表情になった。

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一話完結の予定が長くなってしまいました^^;
BDもご覧の方はおわかりかと思いますが、静と勝はそれぞれ○○と△△の"きょうだい"です(^^)
(後編ではご本人たちもしっかり登場します)
タイトルはJUDY AND MARYの曲から♪
[綾部海 2004.6.20]

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