Triangle
19

「も〜腹減って死にそ〜!!」
中庭に上履きのまま出てきた三人は緑生い茂る桜の木の下にやってきた。(ほんとは靴に履き替えましょう)
雪野は木陰に座り込むと桜の木にもたれかかり「ふぅ」っとため息をついた。
その横で要がビニール袋から取り出したのは...どう見てもプラスチック製のお弁当箱ふたつ。
「お弁当、作るの!?」
てっきりコンビニ弁当か何かだと思っていた雪野は驚きまくった。
「ん〜、貧乏な時はこっちの方が安上がりだから。」
"もう待ちきれない!!"という様子で天が開いたお弁当箱の中には白飯にミニハンバーグ(ケチャップ添え)、ほうれん草のおひたし、ミニグラタン、フリッター(おそらく中身はイカ)。
「...これ全部ふたりが作ったの!?」
「おかずは全部冷凍食品。これ、便利だよ〜、夕飯のおかずにもなるし。仕送り来たらとりあえず冷凍庫いっぱい買い込んでおくわけ。で、お米は毎月親戚が送ってくれるもんで。」
要が淡々と語る"宮島家の食生活"に雪野脱力...。
「でも、5月はつらかったよな〜。途中で"おかず"なくなっちまって月末はずっとおにぎりで...」(どうやらGW中に冷凍食品を食べまくったらしい)
頬にご飯粒をつけている天の言葉に雪野はさらにがくっと力が抜けた。
「...料理とかしないの?」
「まったくしない訳じゃないけど、なんせおれの得意料理は目玉焼きだからねぇ。」
「...よくわかりました...」
雪野はお弁当袋を膝の上に抱えたまま深々とため息をついた。
(男の子ってみんなこんななのかなぁ?)
幼い頃から母と祖母に家事全般をしつけられてきた雪野には理解できない世界だった...。(註:しっかり家事ができる男子ももちろんいます by綾部)

「前田ちゃん、とっとと食べないと昼休み終わっちゃうよ。」
「あ、うん...」
ほんとはそれよりも要と天にいろいろ訊ねたい雪野であったが当のふたりは食べることに意識集中していた。
雪野は仕方がなく自分のお弁当箱のふたを開けた。
「あ!!」
「え!?」
突然声をあげた天に雪野はびっくりした。
「雪野の玉子焼きうまそ〜!!」
天の視線は雪野のお弁当箱の玉子焼きにばっちり向けられていた。
雪野は一瞬固まってしまったが、すぐにおずおずと天にお弁当箱を差し出した。
「よかったらどうぞ。」
「ほんと!? わ〜い!! いただきま〜す!!」
天は玉子焼きをひょいっとつまむとぽいっと口の中に放り込んだ。
そのすばやさに雪野は目を見張り、要はくすっと笑った。
「うめ〜!! ほんと、うめ〜よ!! 要も食べてみろよ!!」
「いい?」
要は笑顔で雪野の顔をのぞきこんだ。
「あ、もちろん!!」
雪野がお弁当箱を差し出すと要は箸で玉子焼きを自分の口に持っていった。
「ほんとだ。自分で作ったの?」
「あ、ううん...」
「じゃあ、お母さん、料理上手なんだね。」
それを聞いた雪野は顔が真っ赤になった。
「え...あの......うん...」
そんな雪野をふたりはちょっと「?」となったがあえて気にしないことにした。
「あ〜遥さんのだし巻き卵食べたいな〜!!」
「さすがにそれは航空便でも無理だなぁ。」
ふたりの会話に雪野は首を傾げたまま止まってしまった。
「あ、"遥さん"っておれの母親。天は人生の半分近くをうちの母親の料理で育ったからねぇ。」
「なるほど。」
納得する雪野の横で天はまだ「食べたい!!食べたい!!」をくり返していたのだった。

「それにしても...ほんとにいいの...?」
三人ともお弁当を食べ終わると雪野はずっと口に出したかったことを言葉にした。
「何が?」
要と天は同時にそう言いながら雪野を見た。
「あの...みんなにわたしがふたりの"特別な女の子"だって思われちゃうこと...」
「"思われちゃう"も何も、ほんとのことだからいいんじゃない?」
けろっと述べる要に雪野は頭を抱えた。
「天もかまわないよな?」
「ん、別に。」
そう言うと天は紙パックの牛乳をちゅーっとすすった。
「天くんまでそんなあっさりと...あ、そうだ!! なんで天くん、急にわたしのこと名前で呼び始めたの!?」
天はちょっと考えてから口を開いた。
「要がいつもお前のこと、家では名前で呼んでいるからオレもマネしただ...」
「え!?」
雪野が驚きのあまり固まっている横で、要は「しーっ!!」と言いながらあわてて天の口をふさいだ。
「天、"マネ"っておれは呼び捨てにはしてないだろう...」
「いちいち"ちゃん"とかつけるのめんどくさいじゃん。」
雪野はふたりがじゃれあっているのをながめながら、要が自分のことを名前で呼んでいるのを想像し、そのうれしさや恥ずかしさやらで顔を真っ赤にしていた。
「あ、それよりも、天、まだ前田ちゃんにあやまってないだろ?」
「へ? 何が?」
「知らないとは言わせないぞ!! お前、前田ちゃんになんか失礼なことしたんだろ? 次の日、前田ちゃんがショックで寝込んじゃうくらいの。」
「あ...」
雪野と天は"あの日のこと"を思い出して固まってしまった。
「まぁ、どうせ天のことだからおれが前田ちゃんのことをきらいだとかなんとか言って前田ちゃんをおれから離れさせようとしたんだろうけどね。」
「な、なんで...!?」
「お前のやりそうなことくらい読めるって。」
(そうだったんだ...)
天の"あの行動"の本当の理由を初めて知った雪野はまじまじと天を見た。
それに気づいた天は真っ赤な顔でそっぽを向いた。
「でも、それで雪野ちゃんのこと傷つけちゃしょうがな...あ。」
無意識に"雪野ちゃん"と言ってしまったことに気づいた要は思わず手で自分の口をふさいだ。
雪野は一瞬自分の耳を疑ったが、要の反応にさっきよりも顔が真っ赤になるのを感じた。
「と、とにかく、天、ちゃんとあやまれ!!」
「わかったよ。」
天は顔は雪野の方を向いたが目はあさっての方向を向いていた。
「...悪かったな。」
「ううん、別に気にしていないから。」
「ほら、見ろ!! "気にしてない"って言ってんじゃねえか!!」
「ってそういう問題じゃないだろう!!」
また"ぎゃーぎゃー"と始めたふたりに思わず雪野は声を出して笑ってしまった。
(そういえば、こんなに表情豊かなふたり見たの初めてかも。)
そう思うと雪野はまた自然と笑いがこぼれていった。
要と天は大笑いする雪野に一瞬きょとんと動きを止めたが、やがてふたりも笑い出した。
「雪野、変な顔〜!!」
「え、ひど〜い!!」
「天、お前、笑い過ぎだって!!」
笑い声の向こうで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っていた。

そして、期末テストが終わり、一学期最後のLHR。
満場一致で二学期のクラス委員長と副委員長には要と雪野が選ばれた。
(なんだかひとりであせってたのがばかみたい...)
放課後、黒板に書き出された各委員の名前を生徒会へ提出するプリントに写しながら、雪野はため息をついた。
「前田ちゃん、書けた?」
「ん、もうちょっと。」
そして、雪野が書き終えると要はするっとプリントを持って行った。
「じゃあ、おれ、これ提出してくるから。前田ちゃん、もう上がっていいよ。」
「うん、ありがと〜」
雪野はぺた〜っと机の上に顔を伏せた。

「じゃあ、二学期もよろしく、"雪野ちゃん"」

「!」
雪野が思わず顔を上げると、要はこちらに背を向けたままそそくさと教室から出て行くところだった。
(でも..."あれ"もムダじゃなかったかな)
雪野はへへっと笑うと、鞄を手にし教室を後にした。

雪野、要、天の"Triangle"はこんな風にして始まった。
三人の"形"がどう変わっていくのか...それはこれからのお楽しみ♪

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は〜やっと終わった〜(でもまだ第一部^^;)
ちゃんとした"あとがき"は後日レシピでUPいたします。
ここまでおつきあいいただいたみなさまほんとにありがとうございますm(_ _)m
次作もよろしくお願いします(^^♪
[綾部海 2004.2.22]

to be continued to the next stage:"A Kind of Masic"

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Photo by Earth Square