Triangle:Chapter 3
大地讃頌
8

"保健室行き"の翌日一日だけ学校を休んだ(というか"休まされた")光希はその次の日からいつものように登校した。
そして、やはりいつものように昼休み、音楽室横のレッスン室に向かったのだが、今度は「大地讃頌」の"新・伴奏者"が「このままでは間に合いそうにない!!」ということで音楽の中村先生との特訓のためにレッスン室を使いたい、とのこと。
そこで、また光希は先日のように楽譜を手にしたまま音楽室を後にしたのだった。

「あ、手塚先輩、こんにちは。」
ちょうど音楽室を出たところで光希は13HRの女子数名といっしょにいる雪野に遭遇した。
「こんにちは、前田さん。今日は音楽室で練習?」
「はい。」
「そう、がんばってね。」
雪野と言葉をかわしていた光希は雪野といっしょにいる子たちが自分のことをやけにちろちろと見ていることに首を傾げた。
そして、隣にいた里美に何度も目配せされていた雪野は思い切って口を開いた。
「あの…手塚先輩、お身体の調子はもう大丈夫なんですか?」
雪野の言葉に光希はさらに首を傾げた。
「えぇ、もうすっかり…でも、なんで前田さんたちが"そのこと"知ってるの?」
「だって、学校中のうわさになってましたからっ!! "階段で倒れそうになった手塚先輩を西森会長が助けた"って!!」
横から口をはさんできた里美の言葉に光希は思わず固まってしまった。
「…西森くんが…?」
呆然とした様子の光希に雪野は驚いていた。
「あの…ご存知なかったんですか…?」
光希は雪野の質問に答えることなく、無言のまま屋上へと続く階段を上って行った。
雪野たちはその光希の行動をあっけにとられた表情で見送っていたが、ふと我に返った雪野は里美たちに「先に行ってて」と告げるとあわてて光希の後を追った。

雪野が北校舎の屋上にたどり着いた時、光希はひとり、静かな表情で屋上の柵にもたれて座り込んでいた。
そこで、雪野は光希からちょっと離れて同じように座ってみた。
寒風ふきすさぶ屋上にはふたりのほかに誰もいなかった。
"いつもとどこか違う感じ"の光希が気になって思わずついて来てしまった雪野だったが、それから先はどうしたらいいのかわからず光希の様子をうかがっていた。
しかし、光希は黙り込んだままただ座っているだけだった。
だんだんとその沈黙を気まずく感じ始めた雪野はなんとか話題を見つけようとした。
「そういえば、昨日、西森先輩からプリンをいただいたんですよ。」
雪野が話し始めても光希はそのままでぴくりとも動かなかった。
「最初、"西森先輩の手作り"って聞いてびっくりしたんですけれど、すっごくおいしくて…」
多少ぎこちない笑顔を浮かべた雪野はまたもや固まった表情の光希に驚いてしまった。
「…"西森くんの…手作り"…?」
「はい。そう聞きましたけど…」
光希は航とあまり遊ばなくなった後にも何度か"航くんちのプリン"をもらったことがあったのだが、それは航の母が作ったのだと信じて疑わなかった。
でも、ひょっとして…。
光希は"思いがけない事実"の数々に驚きを隠しきれなかった。
一方、雪野はそんな光希をおそるおそる窺っていた。
「前田さん。」
「は、はいっ!!」
突然、声をかけられた雪野は思わず大声で返事をしてしまった。
「前田さんはどうして北高に入ろうと思ったの?」
「え?」
予想外の質問に雪野は目をぱちくりとしたが、すぐに口を開いた。
「あの…変な理由かもしれないんですけど…」
おずおずと話し出す雪野を光希は黙ってみつめていた。
「小学生の時に通学路でいつも北高生のおねえさんとすれちがったんです。それで、その着ていた制服が素敵だなぁ、と思って…」
だんだんと声が小さくなっていく雪野の話を聞いていた光希はひとこと「そう…」と言うとまた雪野から視線を外した。
「あの…手塚さんは?」
そう雪野に返されて光希はしばし考え込んだ。
"母やピアノの先生が北高出身だったから"とか"レベル的にちょうどよかったから"とかいろいろ浮かんできたが…どれも"まわりに薦められたから"というものばかりで、航や雪野のように"自分から"出てきたものではないことが光希はなんだか恥ずかしく思った。
「…忘れちゃった。」
光希の"立派な答え"を期待していた雪野はその答えに拍子抜けしてしまったがそのことを口には出さなかった。
それから、ふたりはまた黙ったままぽつんと屋上に座り込んでいた。
そして、雪野が小さくくしゃみをした時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


♯ ♯ ♯ ♯ ♯


「はっくしょんっ!!」
放課後、要と共に予餞会の会議に向かう途中の雪野は廊下で大きくくしゃみをした。
「大丈夫?」
「うん、たぶん。」
雪野は心配そうな要の横で小さく鼻をすすった。
「そういえば、昼休み、練習出てなかったけれどどこ行ってたの?」
要の質問に雪野は内心ドキッとした。
「ちょ、ちょっと、急用が…。」
「倉元(里美)さんが『手塚さんを追いかけて行った』って言ってたけど?」
いたずらっぽく笑う要に雪野はばつの悪い顔になった。
「またなんか言われなかった?」
「別に…『どうして北高に入ろうと思った』のかきかれたくらいで…」
「ふ〜ん。」
なんだか意味深な表情を浮かべる要に雪野は「?」となったが、ちょうど会議室に着いてしまったのでそのことをきくことはできなかった。

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気がつけば(!!)、半年も間があいてしまいました…本当に申し訳ありませんm(_ _)m
ちなみに、前回のあとがきで書いた"意外なツーショット"とは光希と雪野だったのですが…
考えてみたら「Triangle」でもありましたね、この組み合わせ^^;(おいおい)
そして、さらに気がつけば今回も天の出番が…; ̄ロ ̄)!!
[綾部海 2005.11.21]

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