Christmas in Triangle
Santa Claus is Coming to Town


その日、リビングでうたたねしていたオレに誰かが声をかけた。

「パパ!! パパ!!」
…なんだぁ? うるさいガキだなぁ…ていうか"パパ"って誰だよ!?
「パパったらぁ、起きてよぉ!!」
さらにもうひとりの声が加わり、オレの体をゆさぶったりべしべしたたき始めた…!!
"なにすんだ!?このやろう!!"
そう思いながらがばっと身を起こすと…目の前にはおんなじ顔をしたちっこいガキがふたりいた。
…だれなんだ、こいつら?
ひとりはピンクのパーカーを着ていて、もうひとりは同じデザインの水色のパーカーを着ていた。
たぶん"ピンク"の方が女で、"水色"の方が男なんだろう。
オレがそんなことを考えながらやつらをじろじろと見ていると、ふたりは首をかしげて訝しげな顔をした。
「パパ、どうしたの?」
"ピンク"が不思議そうな顔でオレの顔をのぞきこんだ。
…やっぱり"パパ"ってオレのことなんだろうなぁ…それにしても、こいつらの顔、どっかで見たことあるような…
オレがうーんとうなり声をあげると、"ピンク"はびっくりした顔になり急に駆け出した。
「ママ!! ママ!! パパがへんだよ〜!!」
オレはその時、初めて周りの景色が目に入ってきた。
確かに"うちのリビング"なんだけど、どっか違うような…。
ダイニングテーブルの上にはフライドチキンやサラダが並び、テレビの横にはクリスマスツリーが飾られていた。
「…パパ、だいじょうぶ…?」
ふと、声の方に目をやると、"水色"が心配そうな顔でオレの服の袖を引っ張っていた。
「あぁ、大丈夫だよ。」
オレはその顔に自然と笑顔になってしまった。
まぁ、なにがなんだかよくわからないけど…いいか(!!)。
オレの様子に"水色"がほっとした顔になると、"ピンク"も戻ってきてもう片方の袖を引っ張った。
「パパ、はやく"ごちそう"たべようよぉ!!」
"ピンク"がそう言うとふたりは勢いよくオレの腕を引っ張るもんで、オレは思わずころびそうになった。
「おいおい、いい子にしてないとサンタさんが来てくれないぞ。」
オレが笑いながらそう言うと、なぜかふたりはきょとんとした顔になった。
「パパ、"サンタさんなんていない"っていったじゃん。」
「へ!?」
「うん。"よーちえんのサンタさんはほんとはえんちょうせんせいだ"っていって、パパ、ママにおこられたでしょ?」
オレはふたりの言葉に唖然とし、何も言えなかった。

★ ★ ★ ★ ★

「いいかげん起きろよ、天。」
まだぼやけている天の視界にあきれた様子の要の顔が飛び込んで来た。
「あれ、要…?」
「まったく、"リビングで寝るな"って何度言ったらわかるんだ?」
そう言うと、要は天の目の前から姿を消し、天はそれを追いかけるようにゆっくりと身体を起こした。

"いつも"と変わらないリビング。
ダイニングテーブルの上にチキンとサラダ。
しかし、テレビの横にクリスマスツリーはなかった。

「あ、天くん、起きた?」
天が半分寝ぼけた状態でさっきの夢を思い返していると、雪野がキッチンから顔を出した。
「ごめんね、もうちょっとでごはんの準備できるから。」
「雪野ちゃん、別に謝らなくていいよ。天が勝手に待ってたんだから。ほら、おまえもこっち来て手伝えよ。」
要に言われて天はのっそりと立ち上がった。
「"よびこー"(予備校)は?」
「とっくに終わったに決まってるだろ。何時だと思ってるんだよ。」
まだ寝ぼけ眼の天に要はさらにあきれ顔になった。

そうして、三人で"クリスマスディナー"を済ませ、食器を下げると、雪野がダイニングテーブルの上にデコレーションケーキの箱を置いた。
「あ、サンタのキャンドルが乗ってるよ!! かわい〜♪」
雪野が箱から出した小ぶりな生クリームケーキの上には、プラスチック製のもみの木やチョコでできた小屋とともに小さなサンタが並んでいた。
「サンタ…」
「天、どうかしたか?」
「いや、別に…。」

そして、雪野が切り分けてくれたケーキを天がもそもそと食べていると…
「そういえば、ふたりとも、何歳くらいまでサンタクロース信じてた?」
突然の雪野の質問に天は噴き出しそうになった。
「うちは小さい頃から"両親が直接手渡し"だったから信じるもなにもなかったんだけど…」
「ふ〜ん。」
要と雪野が話している横で天は懸命にケーキを食べることに集中していた、が…。
「あ、そういえば、天は6歳くらいの頃、『アメリカでサンタからプレゼントをもらった』って自慢してたよな?」
要の言葉に天はケーキをぐっとのどにつまらせ、とうとうゲホゲホと咳き込み始めた。
「て、天くん、大丈夫!?」
雪野はあわてて紅茶の入ったマグカップを天に渡し、要もびっくりした顔をしていた。

そんなふたりの心配をよそに、天はひとりショックを受けていた。
(自分だって"あいつら"くらいの頃にはサンタがいると思い込んでいたのに…なんで"あんなこと"言ったんだよ、夢の中のオレ!?)

『もし自分に子供ができても"あんな父親"にはならないぞ!!』と天がひそかに心に誓う、そんなクリスマスイブでした(笑)


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またもや"ラブのかけらもない"ものになってしまったTriのクリスマスいかがだったでしょうか?(笑)
今回は一応、"三人は高校3年生"という設定でした(え?わからない?)。
はたして、天は理想通りのお父さんになれるのでしょうか?(にやり)
[綾部海 初出:2006.12.24 / 2007.12.24 ブログより再録]

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Photo by おしゃれ探偵