044.バレンタイン
My Funny Valentine
1

それは2月13日のことだった。
2月から3年は受験のため自由登校になったが、俺と友人の保は毎日学校の図書室で勉強していた。
最初は家で勉強するつもりだったのだが、昼間はほとんどまゆが家にいるためおそらく勉強どころではないだろうということで(おいおい)、保の誘いを受けたのだった。
まぁ、それはおいといて。
その日、俺が苦手の数学を保に教えてもらっていると横から声をかけられた。
「酒井先輩、古屋先輩、お勉強中失礼しま〜す!!」
見ると、2年の学年章をつけた女の子がふたり立っていた。
「何?」
「あの、これ、1日早いんですけど、チョコレートです!! 受け取って下さい!!」
俺たちが口をはさむ間もなく、その子たちは小さな紙袋をひとつずつ俺と保に押しつけると、"キャーキャー"言いながら図書室を出て行った。
俺たちは紙袋を手にしばし固まった。
「...晃平、いいのか、こんなの受け取って?」
「...お前こそ彼女いるだろうが。」
しばし沈黙。
「...それにしても、あの子たち誰?」
「...さぁ...」
俺の質問に保も首を傾げた。

「おかえり〜!! すぐごはんにするね。」
リビングのガラステーブルで仕事か何かをしていたらしいまゆはそれをまとめると楽しそうに台所に向かった。
チャンス!!
俺は台所に背を向ける状態でソファに座ると鞄の中からさっきの紙袋を取り出した。
赤いチェックの袋の中には白いリボンのかかったピンクの長方形の箱と白い封筒。
箱の中には手作りらしい丸いチョコが6つ入っていた。
そして、封筒には...


     受験勉強でお忙しい中こんな手紙、ご迷惑だと思いますが、思い切って告白します。
     わたしは1年の時からずっと酒井先パイのことが好きでした。
     いままでこの想いを心の中にしまったままでしたが
     もうすぐ先パイが卒業されるということでがんばってみることにしました。
     でも、とても直接伝えることはできないということでこうして手紙にしてみたのですが...。
     こんな手紙とチョコを渡すだけでもずうずうしいのですが、
     さらにずうずうしく先パイにひとつお願いをしたいのですが...。
     もしよろしかったら、明日の14日の13時、M駅南口に来てください。
     最後に先パイとの思い出を作りたいのです。よろしくお願いします。  25HR 室伏加奈


「こっ...!!」
手紙を読み終えた俺は思わず声が出てしまいあわてて手で押さえた。
「何か言った?」
台所からまゆの声が飛んできた。
「あ、べ、別に...。」
「そう? ごはんもうすぐできるから待っててね。」
俺はまゆがフライパンに集中しているのを確認するともう一度手紙に目をやった。
白いシンプルな便箋にちょっと丸っこい文字で書かれた"それ"は...まさしくラブレターだよな...。
俺は何度もその文面を読み返した。
ラブレターをもらったのは初めてではなかったが、だいぶひさびさだったせいかなんだか緊張していた。
そして、さらに...
「なに、ニヤニヤしてるの?」
知らないうちに顔がゆるんでいたらしく、ダイニングテーブルに料理を並べるまゆに変な顔をされた。
「べ、別に。あ〜腹減った〜!!」
俺はチョコと手紙を鞄の中に隠すとテーブルに着いた。

そして、夕食後。
まゆがお風呂に入ったのを見計らって俺は保の携帯に電話した。
『晃平?どうした?』
「お前さぁ、今日もらった"あれ"、中見たか?」
『ああ。』
「何入ってた?」
『チョコとカード。"受験がんばってくださ〜い!!"って。...で、お前は?』
保の質問に俺は一瞬なんて答えようか迷った。
「お、俺は...」
『あ、お前、まさか"本命チョコだった"とか言うんじゃないだろうなぁ!?』
「その、まさか、みたい...」
『え〜!! なんでお前ばっかり〜!!』
「ば、ばか!! 大声出すなよ!! まゆに聞こえるだろ...」
「何が?」
いつのまにかパジャマ姿のまゆが俺を後ろからのぞきこんでいた!!
「どうしたの?こそこそ電話したりして...」
「え、べ、別に...」
後手に隠した携帯からは保が何か言ってる声が聞こえていたが俺は無視して通話を切った。
"これで一安心"と思ったが...。
「あれ?これなぁに?」
まゆが手にしているのは..."例の手紙"!! ガラステーブルの上に置いといたの忘れてた!!!
最初、まゆは怪訝な顔でその手紙を見ていたが、徐々に"怒りのオーラ"が...(汗)
「ふ〜ん...こうちゃん、ラブレターもらったんだぁ...」
「これは...その...」
「で、明日はこの子とデートするんだぁ。」
「い、行かないよ!!」
まゆの言葉に俺は思わずそう叫んだ。
「どうして?かわいそうじゃない、この子。」
まゆは驚いた顔でそう言った。ってなんでそうなるんだ!?
俺はため息をついた。
「...わかった...行くよ。」
「え!? 行くの!?」
どっちなんだ!? まったく...。
「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」
「知らない!! こうちゃんの好きなようにすれば!!」
まゆはそう言うと立ち上がり、リビングのドアを勢いよく閉めていった。そして、少したってからおそらく寝室のドアを閉めたらしい大きな音がした。
まったくなんなんだ、まゆのやつ...。
そして、しばらく考えた結果、俺は明日の予定を決めた。

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"バレンタイン企画"といいながらちゃっかりとお題にのっております^^;
後編は明日公開(予定...)
[綾部海 2004.2.13]

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