044.バレンタイン
My Funny Valentine

2月14日(土)12時30分。
俺はマンションに近いD駅にいた。
「晃平?」
いきなり声を掛けられておそるおそる振り返ると...。
「なんだ、お前らか。」
そこにいたのは保と...
「"なんだ"とは失礼ね、"こーへー"」
俺の元・彼女で、今は保とつきあっている敦美だった。
「なに、デート?どこ行くの?」
「F駅前の映画館が今日はカップルだと\2000なの〜♪」
うきうきと話す敦美に俺は「げっ!!」となった。
だってF駅ってここからだと電車で30分以上もかかる所じゃないか...。
もっと近くに映画館いくらでもあるのに...確かに"そういうサービス"、全然してくれないけれど。
「大変だな、保。」
俺は保の肩をぽんと叩いた。
「...もう慣れてる...」
あきらめたように保がぼそっとつぶやいた。(保と敦美は"生まれた時から"の幼馴染なのだ)

そして、俺たちはいっしょにM駅行きの電車に乗った。
「あ、そういえば、晃平、昨夜、電話突然切れちゃったけどどうした?」
来た!! できればされたくなかった質問が...。
「あ〜え〜と...」
俺がなんて答えようか困っていると...。
「そういえば、こーへー、本命チョコもらったんだって?」
横から敦美が乱入してきた。...ってなんでお前が知ってるんだ!?
「昨日、たもっちゃんが電話してた時そばにいたから。」
俺の心を読んだかのように敦美はけろっと答えた。
前に敦美は弟といっしょに保の家によく行ってるって聞いてたけどあんな時間までいるのかよ?(って人のこと言えないか?)
...ほんとに仲のいいことで...。
「で、こーへーのことだからそれがあっさりまゆ先生にバレて、ケンカになって、冷戦状態のまま今にいたる、って感じかな?」
うっ...ほんとになんでこいつはこんなに勘が鋭いんだ?...ていうか俺ってそんなにダメダメ?
こんどは保が俺の肩をぽんと叩いた。
いいよ、俺も慣れてるよ...。
「それにしても、どうせ今回もこーへーが"八方美人"しまくったんじゃないの?」
「そんなことない!!」
「ん〜、でも、こーへーは無意識に愛想振りまくことあるからねぇ。それで、何人の女の子が誤解したことか...。」
敦美はそう言うとため息をついた。
「なんか言葉に重みがないか?」
「うるさい。」
保のつぶやきに一応心当たりがある俺はそう言うことしかできなかった。
「とにかく!! まゆ先生泣かせるようなことするんじゃないわよ!!」
"なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ"と思いつつも俺は反論できなかった。

「そういえば、敦美は"あれ"のこと知ってるのか?」
俺は保に小声でたずねた。
「...チョコ、弟たちといっしょに全部食べられた...」
いかにも敦美らしい行動に思わず笑ってしまうと保に頭を軽く小突かれた。

M駅に到着すると、JRの連絡口へ向かうふたりと別れて俺は改札を出た。
普通、みんなが待ち合わせに使うのはその隣のJRの改札そばなのだが...困ったことに俺は室伏加奈の顔を覚えていなかったのだ(爆)
まぁ、彼女が俺の顔をわかっているから大丈夫だろう。
そう思いながら歩いていくと、改札のそばの大きな柱の前に立っていた女の子が「あ」と顔を上げた。
思わず俺が立ち止まってしまうと、彼女は小走りに近づいてきた。
「酒井先パイ、ほんとに来てくれるなんて...」
赤いダッフルコートを着た加奈は頬も真っ赤だった。
その顔を見た途端、俺はここに来たことを後悔してしまった。
俺はただまゆの「こうちゃんの好きにすれば!!」という言葉に意地になっていたのだ。
それなのに...こんなキラキラした瞳で迎えられるとは...。
俺は良心がズキズキ痛むのを感じた。
しかし..."来たからもう帰る"という訳にもいかないし...かといって、ほんとにデートする訳にも...。
「先パイ?」
黙ったまんまの俺に加奈は不思議そうな顔をした。
「あの...今日、あんまり時間取れないんだけど...チョコのお礼にお茶、ごちそうさせてくれる?」
「はい!!」
加奈はほんとにうれしそうに笑った。
あぁ、良心が...。

そして、俺たちは駅前の喫茶店に入った。
「俺、ホットにするけど室伏さんは?」
「あ、わたしもいっしょで。」
こういう時まゆなら絶対ミルクティーだよな。
俺はウェイトレスにホットコーヒーをふたつ注文しながらそんなことを考えていた。...って今、まゆのことはどうでもいいんだよ!!
俺たちはコーヒーが運ばれてくるまでおたがいに黙ったままだった。
加奈はずっとうつむいたままだったし、俺もなんだか目のやりばにこまってあさっての方向ばかり見ていた。
やっとコーヒーが来て、俺はそれをひとくち飲むと加奈に目をやった。
「...ひとつ聞いていいかな?」
「は、はい!!」
スプーンでコーヒーをかきまわしていた加奈は一瞬びくっとし顔を上げた。
「非常に悪いと思うんだけど...俺、室伏さんのこと全然覚えていないんだ。だから、なんで"好き"って言われたのかわかんないんだけど...」
加奈は一瞬傷ついたような顔をしたような気がした。
でも、コーヒーをひとくち飲むと話し始めた。

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前後編の予定が後編がいよ〜に長くなってしまったのでふたつに分けちゃいました^^;
というわけで、引き続き「3」をどうぞm(_ _)m
[綾部海 2004.2.14]

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