BEFORE DAWN
13

そして、また月曜日がやって来た。
昼休み、俺は担任の田中先生に会いに職員室に行った。
「ん、酒井、どうした?」
お弁当を食べている最中だった先生は俺の顔を見ると弁当箱のふたを閉めて机の隅にやった。
「これ。」
俺はぶっきらぼうに進路調査のプリントを差し出した。もちろん記入済みだ。
「お、やっと決めたか。」
田中先生がうれしそうにプリントに目を通しているのを俺はなんだかドキドキしながら見ていた。
「あ、そういえば、昨日、親父さんから電話あったぞ。」
え!?
顔はプリントに向けたままさらっと告げられた田中先生の言葉に俺は一瞬耳を疑った。
「それから、さっき橘からも。」
ってまゆも!?
俺は思わず叫びそうになった口元を押さえながらかたまっていた。
「"ひょっとしたらご迷惑おかけすることがあるかもしれませんが責任はこちらで取りますので"ってふたりとも同じこと言ってたのには思わず笑っちゃったなぁ。」
田中先生がほんとに楽しそうに笑うのを俺は同じ体勢のまま眺めていた。
そして、先生は俺に顔を向けるとにやっと笑った。
「いや〜酒井もなかなかやるなぁ♪」
またもや楽しそうに笑いながら俺の肩をぽんと叩く田中先生に俺は真っ赤な顔で黙り込むことしかできなかった。
しかし、そんな感想でいいのか、教師として?
「俺も最初に親父さんから聞いた時にはさすがに驚いたけどな。」
先生は俺の考えていることが通じたかのようにそう言った。
「で、親父さんに"よく許しましたねぇ"って言ったらな...」
田中先生はそこで言葉を切った。
そのつづきが気になってしかたなかった俺は思わず先生の顔をじっと見つめていた。
そして、そんな俺の視線に気づいた先生はくすっと笑った。

「"あいつが自分らしく生きていくにはそうした方がいいと思ったから"だってさ。」

え...
俺は恥ずかしさやらうれしさやらで...また顔が赤くなるのを感じた。
そして、思わず手で押さえた口元がゆるんでいくのを止めることができなかった。
...ていうか、親父、なにキザなこと言ってんだよ!!(照)
田中先生はそんな俺ににっこり笑った。
「ま、親父さんがそう言うからには俺も出来る限り協力させてもらうよ、酒井。」
ぽんぽんと俺の肩を叩く田中先生に俺は頭を下げるしかなかった。
「それにしても、橘がお前を選ぶとは意外だったなぁ。」
先生の言葉に思わず俺は顔を上げた。
「え!?なんでですか!?」
しかし、田中先生はにやにや笑ったままで俺の質問には答えてくれなかった。
「一応、あいつも俺の"かわいい教え子"だから、泣かせるような真似したらただじゃおかないぞ、酒井。」
あの、先生...にっこりと笑いながらそんなこと言うのやめてくださいよ...ほんとに(汗)
「まゆ...子さんも先生のクラスだったんですか?」
「あぁ、あいつは1年と3年の時俺のクラスだったんだ。つまり、おまえの先輩になるわけだな。」
まゆが"先輩"...確かに考えてみたらそうなのだがなんだか違和感が...。
「で、話変わるんだけどな、酒井。」
「あ、はい!!」
うってかわって真面目な口調になった田中先生に俺は思わずぴしっと背筋を伸ばした。
「お前の志望校、今の成績だとだいぶ頑張んないといけないぞ。」
「はい、わかってます。」
去年のあの一件以来ろくに勉強していなかったから、俺の成績は思いっきり下がっていた。
でも、"この大学"は昔からずっとあこがれていたところだ。頑張る価値はある。
田中先生は俺の答えに満足気にうなづいた。
「まぁ、こっちの方でも俺にできることがあればなんでも言えよ。あ、そういえばさらに成績が下がったら帰らなきゃいけないんだってな。」
先生はまたおもしろそうににかっと笑った。...親父だな、余計なこと言ったのは...。
俺が真っ赤になって顔をそらしていると、昼休みの終わりを告げるチャイムがなった。
「じゃあ、これはちゃんと受け取ったから。」
田中先生は俺が渡したプリントをさっと掲げた。
「ま、頑張れよ。」
「はい、ありがとうございます。」
俺の背中をぽんぽんと叩く田中先生に俺は深々と頭を下げた。

「失礼しました。」
俺はなんだかとても晴れ晴れとした気分で職員室を後にした。
ちょっと急ぎ足で教室へ戻る途中、ふと保の顔が頭に浮かんだ。
そうだ、あいつにだけはまゆとのことを話してみようか。
もちろん、ほんとは俺がまゆと一緒に暮らしていることは内緒にしておかなければならない。
でも、あいつだったら...きっとびっくりするだろうけれど、秘密は守ってくれるだろう。
そして、これをきっかけにあいつと以前のように接することができるようになったらどんなにいいだろうか。
"きっと許してくれるよ"
まゆの言葉が俺の頭の中を通り過ぎていった。
そう、俺があと一歩踏み出せばきっとうまく行く。
教室に戻ったら保に話しかけてみよう。
そして、その時あいつがどんな顔をするのか想像して、俺は思わず笑顔になった。

♭ ♭ ♭ ♭ ♭

俺はずっとひとりで暗闇の中をさまよっていると思っていた。
本当は俺のすぐそばには俺の助けとなってくれる人たちがたくさんいたのだが、周りが暗すぎて俺はその人たちに気づいていなかった。
そんな俺に"光"を与えてくれたのはまゆだった。
まゆがくれたほんの小さなあかりで、俺は自分がひとりではないことを知り、進むべき方向を見出したのだ。
そのあかりはとても弱々しくて今にも消えてしまいそうだけれど、まゆとならきっと守っていけるだろう。
そして、いつかきっと"明日"という未来にたどり着ける。それはそう遠くはないはずだ。

そんな気がする"夜明け前"。

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最後のところがいまいち"不完全燃焼"な綾部ですが...(ーー;)
ひょっとしたらこの部分だけ書き直すかもしれません^^;
なにはともあれ"THE END"です(^^)
もしよろしかったら下の"next"から全体のあとがきもどうぞ♪
[綾部海 2004.4.13]

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